Zektbach叙事詩 まとめ

第1章

テーマ:戦いとすぎたるものの存在


第1章 第1節 第1話『その名はシャムシール』

メリウス歴719年

数年前に突然国境を越え攻め入った大国ノイグラードの軍勢に対し、軍需に乏しいアゼルガット軍は苦戦を強いられていた――。
度重なる敗戦の末、ラタキア砂漠の東端まで追いやられたアゼルガット軍は今まさに窮地を迎えていた。
首都イスファハンまでの最後の防衛拠点ドロア要塞。
そこを守るのは、若き将軍シャムシールであった。

シャムシールはイスファハンの南にあるアムスという町で生まれた。
父はアゼルガット軍の総督シャルダイル、母は名高い踊り子ククリという恵まれた家庭で育った彼女は幼き頃より父より剣を学び、母から譲り受けた踊りと組み合わせた独特の舞踏剣術を編み出した。
剣の腕前だけでなく弓術にも長け、遠近自在なその戦闘様式はもはや国内で敵うものはおらず隣国のノイグラードにまで勇名は轟いていた。
総督である父の命により、15歳でアゼルガット軍の指揮官となるがもともと国内の警備・自衛目的の軍隊であり、実戦の無い日々は強い者を求める若いシャムシールには退屈であった。
ある日、パナノーラ近郊で悪事を働いていた山賊団を退治したときに捕まえた山賊の長から不思議な事を耳にする。
『アンタのその目。さては、強さに飢えてんだろ?
 ホントはぬるま湯みてえな軍隊に
 飽き飽きしているんだろ?
 そんなアンタにいいことおしえてやんよ。
 アムスの南にあるアッシア砂洞には
 いわくつきのおたからがあるらしいぜ。
 なんでもこの世で一番の曲刀が眠っているそうだ。
 そいつを持てば、
 アンタは今の何倍も強くなるだろうよ。
 ただ見つけられればだけどな…ガハハハ!』
シャムシールは山賊のたわごとなど信用しなかったが、何故かこの言葉はずっと心にひっかかった。
(どうせ、退屈な日々だ…何もしないでいたずらに時間を過ごすよりはましだろう。)
突然軍から姿を消したシャムシールに、父シャルダイルはひどく落胆した。
娘は一体どこへ行ってしまったのか…?まだ若い娘に、軍を任せるのは早かったのか?
シャルダイルは職務を放り出した娘は責めずに、娘の気持ちを察せなかった自分のふがいなさを責めた。
シャムシールが父の元に戻ってきたのは、ノイグラード軍の猛攻により国が窮地に立たされた時であった。
彼女は父が口を開くよりも早く、最後の拠点であるドロアの守備を自分に任せて欲しいと言った。
シャルダイルは娘を問い詰めようとはせず、黙って頷きドロアの守備を彼女に任せた。

ノイグラード王国軍騎士団長アドノエルは四万の大軍を率い、ドロア要塞を前に布陣した。
シャムシールが指揮を執っている事は既に諜報部隊により耳に入っており彼女の勇猛振りもノイグラード王国軍では有名な事であった。
かのシャムシールが指揮を執っているということで、アドノエルは四千の敵に対し四万という大軍、陣形もテストゥドを改良した防御重視の形にし慎重策を取っていた。
(シャムシールの強さは本物だ。だが、いくら彼女が修羅の如き強さであろうと我が精鋭がこれだけの人数集まればどうしようもあるまい。)
要塞を眺めながらアドノエルは突然悲しくなった。彼は強き者を愛してやまないからだ。
(この戦でシャムシールは討ち死にするであろう。あれほどの勇将を失うのは実に惜しい…。)
アドノエルはいつもより気合いのこもった声で出撃の号令を叫んだ――。

引用元:Story(Doroah Front) - The Epic of Zektbach


第1章 第1節 第2話『疾風迅雷』

メリウス歴719年

ドロア要塞中央砦の最上階はサンダルウッドとイランイランが混ざったような芳しい香りが広がっていた。
香煙はどうやら奥の部屋から流れているようであり、香りにのって木製の撥弦楽器をつまびく音色も響いていた。
幽玄でけだるい何とも言えないその音色が、官能的で甘い香りとともに何とも不思議な空間を作っていた。
突然、その香りの層を斬るように一人の兵士が慌ただしく階段を駆け上がってきた。
『シャムシール様、要塞前方にノイグラード軍が押し寄せてきました!』
『遂に来たか…。して、状況は?』
シャムシールは弾いていたウードを静かに床に置き、落ち着いた様子で兵士に聞いた。
『敵軍四万余り。4ジェマ(約2.7キロ)ほどの距離に先鋒部隊。総大将は旗印よりアドノエルと見受けられます。』
『飛鷹将アドノエルか…敵も本気で来たな。』
『敵は我が軍の十倍もおり、十数の投石機まで用意しています…それにあのアドノエルです…勝ち目はあるのでしょうか…』
敵は大軍、しかも勇将と名高い指揮官に率いられているという現実を目の前にして、兵士は既に怯えきっている。
『落ち着け…勝機は必ずどこかにあるはずだ。』
シャムシールは兵士を落ち着かせ持ち場に戻るように言うと弓と矢筒を手に持ち、部屋を出て階段を降りていった。
要塞の巨大な外門の前では大勢の兵士が集まり言い争いをしていた。
『ここは無闇に討って出ず、守りをしっかり固めるべきだ!』
『いや、守っていてもこの要塞にあの大軍だ。しかも最新鋭の投石機が十数もあるというじゃないか。
砦は破壊されいずれ囲まれて全滅するのは明白。ここはナセム魂を見せて討って出て1人でも多くの兵を倒すべきだ!』
『よりによって、あのアドノエルじゃあな・・・』
突然、男だらけの群衆に白檀の甘く妖艶な香りが漂ってきた。
『おい、将軍が来たぞ』
兵士たちがシャムシールの姿に気付くと、喧噪がピタリと止み全員が一斉に同じ方向を向き敬礼をした。
特別な弦が張ってあるヴァルナという名弓を持ち、背中に矢筒を背負ったその女は
場違いとも呼べる妍麗な雰囲気を放っており、兵士たちは戦の事などすっかり忘れてしまうくらいであった。
『シャムシール様、如何いたしましょうかのう?ここは潔く一斉に討ってでますかい?』
先鋒部隊を束ねている百戦錬磨の老将メゼレルがたずねた。
『いや、敵前には先ず私一人のみが出る。お前たちは指示があるまで砦内で待機せよ。』
兵士たちはお互い顔を見合せてどよめいた。
メゼレルはシャムシールの前の立ち、老練な鋭い顔付きで言った。
『あなた様の武勇はよく存じておりますがのう…
しかし其れは1対1の場合であり、戦となると話は別ですじゃ。
ましてわしらはあなた様が戦で戦っている姿を一度たりとも見たことはない。
戦は人一人倒すような簡単なものでは無いのじゃ。
その上敵は我が軍の10倍の数を誇り、騎馬、槍、重兵と全て揃えておる上に投石機も持っているのですぞ。』
『私を信じろ、メゼレル。』
シャムシールが老将の顔を真っ直ぐ見つめて力強くそう言うと、メゼレルはその異様な迫力に圧倒されて返す言葉が出なかった。
『敵先鋒隊の1ジェマ(約670メートル)の位置まで迫っており、砦方向に向って投石準備をしております!』
見張り兵士がそう報告した時、既にシャムシールは門を出でて馬にまたがり弓を引き絞り狙いを定めていた。
ヴァルナの弦が鋭い唸り声を上げた――。
勢いよく放たれた矢はノイグラード先鋒隊の頭上を越え、今まさに打ち出されてようとしていた巨大な投石機横の縄を射抜いた。
ノイグラードの投石兵が何が起きたか分からずにうろたえているうちに次々と矢が放たれてゆく。
矢は目にも止まらぬ速さで飛び、正確な軌道を描いて投石機を支えているあらゆる部分に命中した。
巨石の重さと慣性力によってバランスが崩れた十数の投石機は大きく傾きはじめ遂には逃げ切れぬ投石兵達を押しつぶした。
傾いた状態で放たれた十数の巨石の軌道は、本来とは別の方向にねじ曲がり
全てノイグラード軍のテストゥドの密集陣形部分に落ちた。
装備が重く逃げ切れない重装歩兵達は、何もできずに次々に巨石に潰されて陣形中部は大混乱に陥った。
――それは一瞬の出来事であった。
『後ろが騒がしいぞ。何事だ?』
アドノエルの息子であり、ノイグラード軍の先鋒隊長を率いていたアドフークが異変に気付き進軍を止めた。
『投石機が突然次々に倒れ、放たれた巨石がテストゥドに落ち重装部隊が混乱しております!』
『原因は何だ!兵の裏切りか?投石機に不備でもあったのか?』
『それが、全く一瞬の出来事で誰も分からない状況でありまして…』
『混乱を収拾し陣形を立て直すまで、一時進軍停止だ。』
シャムシールは砦の門前まで引き返し、伝令に言った。
『私が合図を出したら、メゼレル隊以下各隊を出陣させよ。分断した敵軍をそれぞれ包囲せよ、と。』
そう言い残すとシャムシールは、混乱する敵陣形中央部に音もなく近寄って行った。

引用元:Story(Doroah Front) - The Epic of Zektbach


第1章 第4節『アゼルガットの悲劇』

踊り子であり、剣士でもあるアゼルガットのシャムシールはその手に携えた名剣コラーダで祖国の危機を救った。
東の小国アゼルガットはその後に繁栄を極め、大陸でも有数の大国となる。
しかしシャムシールは国を救った英雄でありながら、その一騎当千なる絶大な力は国の中枢部より危険視されていた。
ある日、いつものように華麗な踊りを披露していたシャムシールに遂に国の魔の手が伸びる。
なすすべもないまま拿捕されてゆくシャムシールだったが突然名剣コラーダが異様な光を放ち、次の瞬間剣に操られるが如くシャムシールはそこに居合わせた全ての者を殺めてしまった。
数日後、アゼルガットは滅亡した。
シャムシールは虚ろな表情のまま何かに導かれる如くこの国を後にした。

ゼクトバッハ叙事詩 第1章第4節『アゼルガットの悲劇』より

引用元:バトルダンス - pop'n music 14 FEVER!


EPIC I "BELLUM"

シャムシールよ
お前が我が国を救ったのは知っている
どれだけ多くの者がお前を英雄と讃え
どれほど多くの勇気を我が国民に与えたのかも
だが、お前は必要以上に強すぎたのだ
周囲の人々の目を見てみよ
皆一様にお前のとても人とは思えぬ強さに
怯えきっているではないか
我は王として国民を恐怖に陥れている
お前のその過ぎたる強さを見過ごす事はできぬのだ
いつ何時その悪魔の力が牙をむくか分からぬだろう?
お前も分かっているはずだ
その強さを抑える事ができないということを
その強さを証明できる戦いというものを常に望んでいることを
我が慈悲の名の下に、迷えるお前を悪魔の力から救い
いますぐ楽にしてやろうぞ
英雄シャムシールよ、安らかに眠るがよい

英雄も悪魔も同じようなものだ。
どちらも、その他大勢の人々の中に彼らを元にした道徳を造り上げるという点では。
畏敬も憎悪も生命に強いエネルギーを揺り動かすものだ。
そのエネルギーが生んだ教訓・道徳・文化・常識…
それらは人類の心の生地にパテで均されていったクリームのようなものだ。
過去素晴らしいと賛辞された美味しいクリームは、すべてまやかしであった。
それが確実に人類を無意識のうちに疲弊の方向に向かわせていたのは明らかだ。
もう、パテはいらない。すぎたる者は必要ないのだ。
我々が永遠という存在を手に入れる為には、強者への誘導因子は封印せねばならぬ。

A.D.2355年 進化論理学者 オーガスティン・バイゴット

引用元:絵本風ブックレット - Zektbach 1stアルバム 豪華版



http://music.geocities.jp/zektmatome/
Zektbach叙事詩 まとめ