Zektbach叙事詩 まとめ

外伝


外伝 『ギジリ伝』

小高い丘の斜面に貧しい民家が寄りそうように密集する集落――ジャコツ。
荒れた土地、小さな畑、集落の脇には牛馬の死体が積み重ねられ異臭が放たれていた。
少年はそこで生まれた。
生まれながらの『不浄なる者』として――。

丘を降り川を挟んだ平野部には大きな屋敷と大きな畑が並ぶ別の集落コノハナがあった。
川に橋は架けられていたが、ジャコツの者達がそれを渡る事は許されなかった。
ある時、コノハナから綺麗な格好をした親子連れが橋を渡ってやってきた。
ムラの者は皆地面に頭をこすりつけるよう平伏し、彼らの顔を見ようともしなかった。
コノハナの者はムラの長に何かを指図しているようであった。
痩せた畑で農作業をしていた少年は木陰から親に付き添う一人の少女を盗み見た。
見たこともない鮮やかな衣服をまとい、とても綺麗で艶のある黒髪の少女――。
ムラでは見られない清らな姿に少年は一瞬にして虜になり、無意識のうちに少女に近づいた。
少女の父親はその様子を見て激怒した。
『カガチの分際で何をしておる!これ以上近寄るな!娘が汚れるではないか!』
ムラに怒号が響き渡り、皆の顔から一斉に血の気が引いた。
少年の父親が急いで駆け寄り、息子を勢いよく叩きはじめた。
『お許し下せえ!こいつはオラからよく言い聞かせます!何卒お許し下せえ!』

まだ幼い少年には分からなかった。
何故父親は自分を叩くのか?
何故皆はひどく恐れた顔をしているのか?
そして、なぜ少女は蔑んだ眼差しで自分を見ているのか――。

それから数年後――成長した少年はムラの立場をおぼろげながらも理解するようになった。
このムラの者達は皆カガチジンと呼ばれ、不浄の者の血を引いているのだと――。
しかし、少年は差別はそれだけで起るものとは決して思わなかった。
ムラの者達は怠慢なだけだ、学問や礼儀も得ようとせず全て宿命だからと決めつける。
カガチの者は志が低く身なりさえも整えようとしない――だから蔑まれるのだ。
自分が立派な人間になれば、コノハナの人々も認めてくれるはずだ。
そう思った少年はあらゆる努力を惜しまず自分を磨く事にした。
ほんの少しでいい。ほんの少しでもあの少女に認めて欲しかった。
剣術は卓越したものとなり、ムラの連中と違い学問の素養も礼儀作法も身につけた。
一度で良いから彼女と話したい、笑顔をもらいたい。
自分が立派な人間になればきっと分かってくれる。

しかし――どんなに頑張っても橋の向こう側――ヤマジジンと同じにはなれなかった ――。
少女の口から開かれた最後の言葉。
『二度と近寄らないで…汚らわしいカガチの分際で…』

少女の蔑んだ目はもう変わる事はないだろう
差別と貧困からなる負の連鎖はどこまでも続くだろう
いつからカガチは人としての誇りを失ってしまったのだろう
誰かが断ち切らねばならぬ――
誰かが滅せねばならぬ――
呪われた過去と未来を――
滅せねば――

少年はムラに火を放った。

ゼクトバッハ叙事詩外伝『ギジリ伝』より

引用元:オリエンタルミソロジー - pop'n music 18 せんごく列伝



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