Zektbach叙事詩 まとめ

第2章

テーマ:素数の世界と進化の構造


第2章 第4節 第8話『目覚めし刻印』

メリウス歴723年

最後の問いを解いた瞬間、リアンは頭の中心で何かが強く弾けるのを感じた。

全身の毛は逆立ち、眼球は素早く動きはじめ、毛穴という毛穴から何かが入ってくる感じがした。
次の瞬間自分の体がバラバラになり、膨大な数列となって凄い速さで宙をよぎって行く。
その数列が螺旋の模様を描いて塔のように高く上がったかと思うと世の中に存在する色という色を全て並べた様なモザイク模様に変化した。
モザイクは集まり次々と色々な動物・植物の形となり、巨大な生物図鑑を目の前で物凄い速さでめくられている気分であった。
突如として音が洪水となって押し寄せたかと思うと、その波はリアンを飲み込んだ。
溺れそうになったリアンは必死で何かにしがみついた。
リアンがしがみついたのは美しい太陽で、周りに浮かぶ惑星達がこぞって嫉妬の言葉をリアンの前に羅列しているのが見えた。
やがて、その光景もすべて0と1の数字だけになり、それも消えると目の前は真っ暗になった。
闇の中じっと目を凝らすと、小さな無数の塵が不規則に漂っているのが見えた。
その塵の一つが光り動き出すと塵全体が意思を持ったかのように規則的に動き、やがて闇を光で埋め尽くした――。

リアンは目を閉じ、大きく息を吸った。
(全てを…全てを理解した気がする。とても爽快な気分だ。)
目を開けると光の中より、白い衣をまとった神々しい女神の様な女性があらわれた。

『我が名はシグマ。
待ちわびていたぞ…我が7つの問いに答えし者、リアンよ。
この時をどれだけ待ち望んでいたことか…。

古の種族戦争の後、残されたわずかなルフィナの者達は自らの肉体を捨て、自分達の意識と能力の情報だけを集めた我を創り上げた。
我の役目はこの星に強大な力を及ぼしているリスタチアの起源を解き明かすことだ。
我は長い眠りの後に、この星に再び繁栄しはじめたヒュミナ種の中で特に優れた力を持つ者を選定し
世の正しき理解を得られる知恵の刻印を少しづつ彼らの遺伝情報に転写し積み重ねてきた。
そして、その系譜は長い時を経て、遂に我の七つの問いにも答えられる者を生んだのだ。
ヒュミナとルフィナの力を完全に合わせ持った類まれな者をだ。
それがリアン―――お前なのだ。

お前に刻まれている古来より積み重ねられた両種の優れた遺伝の刻印は大いなる知恵として現れ、おぬしはこの世界でただ一人リスタチアを理解できる者となろう。
我を創った古の種族ルフィナの願い。それは長い時を経て系譜を渡り、遂にはお前に託されたのだ。

さあ、空舟の遺跡に行くがよい。』

リアンは突然あらわれ一方的に啓示めいた事を語るこの謎の女神に対して、何の驚きもせず冷静であった。
むしろ、最初から自分の意志でこの女神に会いに来たかの様でさえあった。
それは、リアンの体に刻まれた多くのルフィナの刻印が今まさに一斉に目覚めたからかもしれない。

(私は、ルフィナという古代種族によって少しづつ刻印を積み重ねてできた存在だったのか。
この女神はこの日のために何百年とかけて私の様な存在を生む超越者の系譜を作り上げて来た、というわけか。
リスタチアか――。
私はここへ来る前にその強大な存在を理解することができなかっただろう。
しかし、今はリスタチアがどれほどこの星に影響を与えているか理解できる。
それを体で感じることができる。)

リアンは物静かな口調でシグマに答えた。

『美しい女神よ―――。
私が何故幼き頃より数字に魅入られ夢中になっていたのか、今分かりました。
全てはこの日の為であったのですね。
しかし、まあ、えらく長い時間がかかったものですね…。
その逆立っている髪を見れば、あなたがいかに退屈であったか分かりますよ。
退屈というものは本当に嫌なものですからね…。』

引用元:Story(Olivie Ruins) - The Epic of Zektbach


第2章 第5節『ゼータの小道』

幼き頃より、数の秘術に魅せられたリアンはその大きな世界に入り込むうちに一つの小さく奇妙な抜け穴を見つけた。
抜け穴を覗いてみれば、その先にはどこまでも続く小道が見えた―――リアンはそれをゼータの小道と名付けた。
ゼータの小道には非常に難解な問いを投げかける女神シグマが幾度となく立ちふさがり、
リアンはそのつど小道の入口に戻されそうになる。
だが類まれなる天才であるリアンは、遂にシグマの出す7つの難問を見事な形で解き
その瞬間、この世界の膨大な設計図が頭の中に洪水のように入り込んできた。
こうして超越者となったリアンは、宝玉リスタチアに対してある解答を見出した。
リアンはリスタチアの核心的な起源を辿るべく空舟の遺跡に向う。
だが、そこには美しい踊り子が立ちふさがっていた…。

ゼクトバッハ叙事詩第2章第5節『ゼータの小道』より

引用元:IDM - pop'n music 15 ADVENTURE


第2章 第5節 第4話『すぎたる知と武』

メリウス歴723年

――リアンは体を触って、その感触を確かめた。

『今確かにこの世界の法則に従じている自分
 そして法則からはずれ鳥のように自由に世界を俯瞰している自分がいる。
 女神は私に黄金の鍵を授け、進化という秘術を与えてくれた。
 私がすべきこと――
 それは人々がその存在意義を意識できないあの宝玉リスタチアの謎を解くことだ。
 それが滅びし種の願いであり、それを受け継ぐ超越者の運命なのだ。』

リアンは進化によって身に付けた超越論理を頭に描きながら、今一度巨大な扉を見た。
すると、物理的に開くのは不可能であろう強固な扉が非常に稚拙な数字の羅列に見えた。
リアンは目を閉じて頭の中でその簡単なパズルを解いてみせた。
再び目を開けた時、扉はさもはじめからそうであったように開いた状態になっていた。

巨大な扉から空船の遺跡の内部に入ると、長い通路から階段が伸び下へ続いていた。
リアンは階段を下へ進むと、ほどなくして大きな部屋へ出た。
部屋の中心には石版のようなものが置かれ、他には何も見当たらなかった。
石版は一定の間隔で淡い光を放っていて、その素材は鉄とも石ともいえない硝子の様な艶を持つ未知の物であった。
リアンは近づいて、注意深くそれを見てみた。
淡い光はどうやら、石版に書かれた文字のようなものが光っていたようだ。
その文字はこの世界のどこにも存在しない形状をしていたがリアンはごく自然にそれを読むことができた。

AD1906 ルートヴィッヒ・ボルツマン ドゥイノにて自殺

リアンはこの一文が何を意味しているのか理解できなかった。
古代のアーティファクトによって顕在化した新しい力を持ってしても解けない程難解な様相を呈しているのだ。
『この複雑なパズルは何だ?この世界のものでは無いのか?』
リアンはおもむろに石版に手を触れてみた。
すると石版は短い音をたてた後に一瞬のうちに色が変化し、書かれていた文字が消え新しい文字が現れた。
リアンはそれを読んでみた。

もはや、止める事はできないことが分かったのだよ。
いつかは全てが意味をなくす事になるであろう。
それでも我々は希望を持てと? ばかげてやしないか?
だから私は決別したんだよ、この虚しい世界に。
(AD2042 D.A.L.によるボルツマンの記憶遺伝子解析結果)

またも意味不明な文章だった。
超越した論理で見てみても複雑な図形が幾重にも絡み合い解を見出せない。
リアンは再び石版に触れてみた。
音が鳴り一瞬のうちに文字が消え、新しい文字が浮き出てくる。

袋小路に迷い込んでしまったのだ。
巨大な迷宮は我々をたやすく受け入れてくれなかったのだ。
この事に気づくのにどれくらいかかったのだろう。
いや、遥か遠い昔に気づいていたのだ。
―ヨアの手記 4―

リアンは突然、自分の意識がざわざわと音を立てているのを感じた。
『ヨア…この名前は初めて見るようには思えない。なにかとても懐かしい感じがする…。』
その時、遠くで物音がした。
リアンが振り返ると、遠く光の向こうに人影らしきものが見えた。
『誰か…いるのですか?』
しかし巨大な部屋に虚しく声がこだまするだけで人影から返事は無かった。
リアンは石版から離れ、人影の見える部屋の入り口の方へ近づいていった。

そこには長く艶やかな黒髪を携え、東国の衣装を纏った美しい女が立っていた。
女は無表情であったが、その瞳にはなにか強い意志がうかがえた。
『…どうやってここへ? 扉は本来ならば開ける事ができないはず…
 見たところアゼルガットの…』
リアンは突然言葉を失った。女が携えている曲刀を見て驚いたのだ。
『その剣の宝玉は…リスタチア!』
女は驚いているリアンにまったく動じず、無表情のままリアンの顔に鋭い視線をやっている。
リアンは曲刀から女の顔に視線を戻すと、美しいその顔立ちから強い殺気を感じとった。
女が口を開いて静かに言った。
『我が名はシャムシール。すぎたるものを追い求め始末する旅を続けている。
 すぎたるものはやがて大きな災いを導く。私がそうであったようにな。
 お前からは類まれなる叡智が満ち溢れているのを感じる。
 悪いが、ここで死んでもらう。
 だが、お前のその強大な力はわが記憶の中で生き続けるゆえ安心するがいい。』
リアンの目に突然膨大な数の素数の羅列が映り、そこから派生するアルゴリズムが次々と女に組み込まれていくのが見えた。
シャムシールは曲刀コラーダに手をかけ、無表情のままリアンに向け振り下ろした。
薄れゆく意識の中、リアンは映し出される目の前の膨大な数字の光景の中に何者かの意識を感じとった。

『…ヨア…か……』

引用元:Story(Ristaccia Ruins) - The Epic of Zektbach


EPIC II "EVOLUTIO"

私はこの世界が、実はどれだけ虚しいものかわかってしまった
しかし――人々はいつだって幻想を求めるものだ
ただ膨大な数字が羅列してるだけで意味を為さないこの世界も
見ようによっては素晴らしい色彩を持った
神秘的で、探求しがいのある世界に見えるからね
その方がいいに決まっている
犬は匂いのハーモニーで大きな世界を作り上げるかもしれないし
蝙蝠は音の反射で様々な色を夢見ているのかもしれない
そして私達は心の中で数字に『意味』という標をつけ
この殺風景で無愛想な世界を芸術的な美しさにできるのだ
例えそれが真理から外れた無駄な事であっても
どれだけ素晴らしいことか、私には十分理解できるよ
ヨア、君もきっとそう思ったのだろう

一体誰がこの世界を作った、だって?
君はまだ大昔の創造論者まがいの事を私に聞くのかね。
作ったもなにも、はじめからあるんだよ。
そこに意味なんて無い。
人類が無駄に意味を求める事に長い時間を費やした結果が
どうであったか、君も分かっているだろう?
全ては塵なんだよ。数字の塵が浮かんでいるだけさ。
君が言う素晴らしく色彩に富んだ世界は
感覚データによって調節された現実世界を
『大げさに解釈した』モデルでしかないのだ。
君も僕も漂う塵が描いた『あたかもそう見える』アナグラムの1つに過ぎないのさ。
いい加減目を覚ましたまえ、人類はもう永遠の存在に近いのだよ。

A.D.2572年 ウロボロス計画発案者 ローレンツ=アウエンミュラー

引用元:絵本風ブックレット - Zektbach 1stアルバム 豪華版



http://music.geocities.jp/zektmatome/
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